映画『オン・ザ・ロード』
8月30日 TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開
映画『オン・ザ・ロード』の好みは分かれるかもしれない。
監督はウォルター・サレス。映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』や『セントラル・ステーション』が好きな人なら、この『オン・ザ・ロード』も気に入るはずだ。サレス監督らしいリリシズム(詩情豊かさ)やクールさ(客観性)が、ここにもある。
けれど、もしもあなたが、ジャック・ケルアックの原作を読み、そこに、スピード感やダイナミックさ、ある種の男らしさのようなものを感じているとするなら、この映画に不満を感じるかもしれない。
原作の読み方、そこからの感じ方で、映画も違ったものになるだろう。
ウォルター・サレスをここでサポートするのは、撮影監督エリック・ゴーティエ、音楽のグスターボ・サンタオラヤ、衣裳のダニー・グリッカー、美術カルロス・コンティといったすばらしい面々だ。
『モーターサイクル・ダイアリーズ』のサントラを持っている人なら、グスターボ・サンタオラヤの音楽は大いに気に入るはずだ。『ブロークバック・マウンテン』『バベル』でオスカーを2年連続で受賞。『アモーレス・ペロス』『21グラム』『ビューティフル』など、サレスの盟友でもあるアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の映画でも毎回音楽を担当している。映画『オン・ザ・ロード』の詩情あふれるムード、決して「疾走していないスピード感(つまり、ゆったりさなのだが……)」の所以は、グスターボ・サンタオラヤの音楽によるところが大きいだろう。
ガス・ヴァン・サント監督『ミルク』の衣裳が見事だったダニー・グリッカー。映画『オン・ザ・ロード』の世界観、1950年代から60年代の風景を、グリッカーの衣裳が見事にサポートしている。『モーターサイクル・ダイアリーズ』でも美術を担当したカルロス・コンティのセットは、その時代を甦らせ、生き生きとした息吹を与えている。
この映画のプロデューサーは、フランシス・フォード・コッポラだ。コッポラは原作小説の映画化権をずっと持ち続けてきた。当初は、自らが監督しようと思っていたに違いない。コッポラが監督していたらいったいどんな『オン・ザ・ロード』になっていたか、それも興味が尽きないが、そのことは「もし××が監督していたら」という「if」の連想に繋がっていく。
たとえば、クリント・イーストウッドが監督していたら。
たとえば、ヴィム・ヴェンダースが監督していたら。
たとえば、ジム・ジャームッシュが監督していたら。
あるいは、スパイク・リーが監督していたら。
またあるいは、スティーヴン・スピルバーグだったら。
名作小説なのだから、何度も映画化されてもいいのではないか。いろんな監督がそれぞれのキャスティングと解釈で、それぞれの『オン・ザ・ロード』を作ってくれたら、と思わずにはいられない。それほど、魅力的かつ個々に解釈の異なるだろう小説なのだから。
そんな想像にかき立てられながら、この映画を見直すと、ウォルター・サレスが迷うことなく「自分自身の解釈によるオン・ザ・ロード」に仕立てたことに拍手を贈りたくなる。そう、これは、「ウォルター・サレスの読んだオン・ザ・ロード」だからだ。