写真/星野道夫
text by Coyote
「原野にぽつんとひとりぼっち寂しくないですか?」
ある講演の最後、高校生の質問に星野道夫はこう答えた。
「一カ月もキャンプ生活を続けるというのは異常なことですね。
でも自然を眺めていると、刻一刻目まぐるしく辺りが変わっていきますから飽きないです。
人恋しくなるという気持ちは普通に生活しているとなかなか味わえないものです」
星野道夫は一人で原野に立ち、動物を観察し、人と出会い、物語を拾遺していった。
思えば16歳で好きなことをしていこうと思った彼はいつも僕たちの先を歩いていた。
アラスカは未知なる世界だったけれど、星野道夫の写真と文章に想いを馳せると、
悠久の自然を近くに想像することができた。
冬になると星野は日本に帰国し、原稿書きや写真のセレクトをした。
彼は日本とアラスカを行き来し、雑誌に記事を掲載して、本を刊行した。
あるとき星野道夫は友人にこう言われた。
「ミチオは冬になると日本に帰っていくけれど、アラスカの冬は長く暗く凍るように寒い。
でもこの冬にこそアラスカの本質があるんだ」
自然に寄り添って生きるために、もっとアラスカを理解するために、星野は家を探した。
「どうしてここに住んでいるのですか?」
星野道夫がアラスカの原野で暮らす人々を訪ねた時にいつも訊いた質問だった。
なお懐深い自然を理解するために。