RED OBSESSION
『世界一美しいボルドーの秘密』

text by Eiichi Imai

 映画の原題は「RED OBSESSION」、つまり「赤(ワイン)に取り憑かれて」という感じだろうか。この映画は、「オブセッション 取り憑かれた」というタイトルの通り「ボルドーの赤に取り憑かれた人々と、その欲望渦巻く世界、ワインをめぐるマネー・ビジネス」についてリポートしている。
正直、これまで知らずにいて驚かされたことは多かった。(安物中心にせよ)日常的にワインを楽しむひとりの人間として、複雑な気持ちにさせられる現実も多く描かれている。だが、ドキュメンタリー映画としては充分に面白い1本だ。ラッセル・クロウのナレーションはすばらしく、映画に1本の太いラインをもたらしている。

何世紀にも渡って、富と権力のシンボルとして存在してきたボルドー・ワイン。マリー・アントワネットらにも愛され、ヨーロッパの貴族や王族、金持ちたちが、その「赤」を欲してきた。
1855年のパリ万国博覧会で、ナポレオン3世によって、世界で初めてワインが「公式に格付け」されたのだという。その際、ランキングのトップ、第一級ワインに選ばれたのが、フランスの4つのシャトー、「ラフィット」「マルゴー」「ラトゥール」そして「オー・ブリオン」。さらにその後、1973年にその第一級にもうひとつ、「ムートン・ロートシルト」が昇格。この5つが現在「5大シャトー」と呼ばれている。すべてボルドー。ボルドーはワインの世界で最上級の品質とプライドを保持してきている、というわけだ。

ボルドー・ワインの繁栄の裏には、刻々と変化する世界市場とグローバル経済がある。ロマンと伝統のワインもまた、高度資本主義社会に組み込まれたメカニズムのひとつであり、ビジネス・コンテンツなのだ。
そして、そんなボルドーは今、大きな危機に直面しているという。欧米の伝統的な顧客が減少し、中国を筆頭とする新興国家によってボルドーのワインが買い占められているのだ。そしてそれによって、ボルドーのワインは、すさまじい価格に押し上げられてしまったのである。
2013年、赤ワインの消費量が世界一となった中国は、今「すべての最高級のボルドー・レッド」を手に入れようと躍起になっているという。果たして、伝統あるボルドーのシャトー、ワイン生産者たちは、どうするのか?