illustration by Akai Chika text by Arai Toshinori
<>真のリーダーシップとは何か、教えてくれる1冊。
1914年12月、イギリス人探検家アーネスト・ヘンリー・シャクルトンは、エンデュアランス号という3本マストの木造帆船で南極大陸横断に挑戦した。南極大陸横断は最も壮大でかつ傑出した探検であると、シャクルトンは確信していた。南極点に行って帰ってくる旅よりはるかに価値があり、これを成し遂げることは北極点、南極点到達を他国に先を越されたイギリスの海洋王国としての威信にかかわっていた。
冒険に先駆けてシャクルトンはロンドンの新聞に探検隊員募集の広告を掲載した。
「求む男子、至難の旅、僅かな報酬、極寒、暗黒の日々 絶えざる危険、生還の保証なし、成功の暁には名誉と賞賛を得る」
5千人以上の志願者がこの募集に殺到したという。その中からシャクルトンが選んだのは28八人、頑固で辛抱強い、魅力的な人々だった。計画はウェッデル海に船を進め、南緯78度、西経36度の地点で6名の隊員と70頭の犬から成る犬ぞりのチームを下ろす。並行するように別の船を南極大陸の反対側、ロス海の西岸に向かわせベースキャンプを張って食料基地を設置する。帰路はベアドモア氷河に向かうというものだ。探検の計画はリスクをともない、向こう見ずと批判もされたが、大胆にして理知的と賞賛もされた。
探検家の間でまことしやかに流布されている言葉がある。科学的な指導力ならスコット、素早く能率的に旅することにかけてはアムンゼンが秀でている。しかしあなたが絶望的な状況にあって、なんらかの解決策を見いだせないときには、ひざまずいてシャクルトンに祈るがいい、と。
座礁し沈没したエンデュアランス号、探検隊員たちは氷の海に取り残されてしまう。極寒と食料不足、疲労、凍傷などの病気が彼らをたえまなく襲う。漂流は17カ月に及んだ。しかしシャクルトンは難局にあってますます闘志を燃やし、想像を絶する危険を乗り越えていく。南極大陸横断の探検には失敗したが、28名全員を生還させた偉業によって彼には遥かに大きな賞賛が与えられた。
シャクルトンの相貌、肉付きのいい広い肩、太い首、鋼鉄のような顎、いつも何かに想いをめぐらしているような瞳。決断力にあふれ一本気だった彼は、隊員から「この世に生を受けた最も偉大な指導者」と慕われる。イヴォン・シュイナードがこの書を選んだ理由、それは真のリーダーシップとは何かと問うたことにある。
【読書家のイヴォン・シュイナードが選んだ10冊】
10 Books Selected by Yvon Chouinard
1『ENDURANCE』Alfred Lansing
『エンデュアランス号漂流』著者アルフレッド・ランシング
2『Annaprnna』Maurice Herzog
『処女峰アンナプルナ〜人類最初の8000米峰登頂』著者モーリス・エルゾーグ
3『The White Spider』Heinrich Harrer
4『The Last Blue Mountain』Ralph Barker
『最後の青い山』著者ラルフ・バーカー
5『Mawson’s Will』Lennard Bickel
6『The Long Walk』Slavomir Rawicz
『脱出記〜シベリアからインドまで歩いた男たち』 スラヴォミール ラウイッツ
7『The Tiger』John Vaillant
8『The Angler’s Coast』Russel Chatham
9『Uttermost Part of the Earth: A History of Tierra del Fuego and the Fuegians』E. Lucas Bridges
10『Tha Beak of the Finch: A Story of Evolution in Our Time』Jonathan Weiner
『フィンチの嘴』ジョナサン・ワイナー